「発音が聞き取りにくい」「カ行やタ行が聞き取りにくい」など、子どもの発音の発達に関して不安を抱える保護者は少なくありません。
言葉の発達には個人差があるものの、徐々に言葉の発音が発達し、6歳ごろを目安に正しい発音が可能になります。
しかし、大きくなった子どもの発音が小さいころと変わらず、言葉の遅れが見られる場合もあります。
言葉の発達スピードは子どもによって異なるため、保護者は子どもの成長を見守りながらサポートしてあげることが大切です。
この記事では、言葉の発音が発達する目安や発達段階で見られる発音の誤り、発音に問題が起こる原因や対応、言葉の発達のために自宅でできることを解説します。
言葉の発音の発達について
生まれて間もない子どもは言葉を理解できず、話すことができません。周りにいる親などの言葉を聞き、真似することで言葉の意味とともに正しい発音を学びます。
赤ちゃんのころは「あーあー」といった母音の発音から始まり、徐々に発音に関係する唇や舌の筋肉などが発達し、さまざまな言葉を明瞭に発音できるようになります。
ただし、言葉の正確な発音の発達は個人差が大きく、話し始めたころから明瞭な発音ができる子どももいれば、6歳ごろになっても発音の未発達が目立つ子どももいます。
言葉の発音に必要な唇や舌、のどや鼻などの器官に異常がない場合でも、正しい発音ができず、「さかな」を「あかな」「ちゃかな」といった赤ちゃん言葉のような発音にしてしまうケースも少なくありません。
そして、何らかの原因によって発音をできない状態を構音障害と呼び、以下3つの分類に分けられます。
構音障害の分類 | 原因など |
---|---|
器質性構音障害 | 先天性、後天性を問わず、発音するために必要な舌・下顎・唇などの器官の形や働きが 原因になっている場合 |
運動障害性構音障害 | 脳血管障害や脳腫瘍、外傷などによって発音に関わる器官とつながる神経に異常が 原因になっている場合 |
機能性構音障害 | 発音に関わる器官や神経に問題がない場合 |
言葉の発音が発達する目安
言葉の発達は、いきなりすべての言葉を発音できるようになるのではなく、年齢ごとに段階を踏み、正しい発音を学んでいきます。
発音の発達スピードには個人差がありますが、年齢ごとの発音の発達目安は以下の通りです。
目安となる年齢 | 覚える発音 |
---|---|
1歳~2歳 | 母音(ア・イ・ウ・エ・オ) パ行(パ・ピ・プ・ペ・ポ) バ行(バ・ビ・ブ・べ・ボ) マ行(マ・ミ・ム・メ・モ) ヤ行(ヤ・ユ・ヨ) ワ行(ワ・ン) |
2歳~3歳 | タ行(タ・チ・ツ・テ・ト) ダ行(ダ・ヂ・ヅ・デ・ド) ナ行(ナ・ニ・ヌ・ネ・ノ) シャ行(シャ・シュ・ショ) ジャ行(ジャ・ジュ・ジョ) チャ行(チャ・チュ・チョ) |
3歳~4歳 | カ行(カ・キ・ク・ケ・コ) ガ行(ガ・ギ・グ・ゲ・ゴ) ハ行(ハ・ヒ・フ・ヘ・ホ) |
4歳~5歳 | サ行(サ・シ・ス・セ・ソ) ザ行(ザ・ジ・ズ・ゼ・ゾ) ラ行(ラ・リ・ル・レ・ロ) |
上記表はあくまでも目安です。目安の年齢に達しながらも発音の発達に遅れが見られたとしても、必ずしも発達に問題があるわけではありません。
しかし、言葉は人と話すために必要なコミュニケーションツールです。
目安の年齢からかけ離れても言葉の発達の改善が見られない場合は、友だちとの会話や学習に支障をきたすケースがあります。
発達段階でみられる発音の誤り
言葉は成長とともにさまざまな発音を覚え、正しく話せるようになります。しかし、発達段階では難しい音を自分が言いやすい言葉に置き換えて発音することがあります。
例えば、置換という誤り方は、言いにくい言葉や言えない言葉を、言いやすい言葉に置き換えて発音する状態です。
言葉の発達段階の子どもは「さ・し・す・せ・そ」の発音が難しく、「さかな」を「たかな」や「しゃかな」と置き換えて発音することがあります。
また、発達段階では言えない言葉の子音を省いて発音する省略という発音の誤りが目立ちます。例えば、「さかな(sakana)」を「あかな(akana)」と子音の“S”を省いて発音することを指します。
置換や省略のような発音の誤りであれば、言葉の発達段階で改善を期待できるケースがほとんどですが、成長とともに試行錯誤しながら正しい発音を覚えていきます。
ただし、誤った発音が成長とともに自然に治らない場合もあり、正確な発音の練習が必要になることもあります。
また、大人になっても発音が難しい音がある場合は以下の異常構音と診断され長期的なリハビリテーションや治療が必要です。
異常構音の種類 | 発音の誤りの状態 |
---|---|
口蓋化構音 | タ行はカ行、ダ行はガ行、サ行はヒに近い音に聞こえる |
側音化構音 | 「シ」が「ヒ」、「チ」が「キ」のようにイ列の音が歪んだ音に聞こえる |
鼻咽腔構音 | イ列やウ列の発音時に「クン」と言っているように音が聞こえる |
声門破裂音 | 母音を強く発音しているように聞こえる |
言葉の発音に問題が起こる原因や対応
言葉の発音は成長とともに発達していきますが、何らかの原因で言葉の発達に問題が起きることがあります。
また、言葉の発音に関係する器官に問題がない場合でも言葉の発音に問題が起こる場合があるため、気になる症状があれば自己判断せず、医療機関へ相談してください。
ここでは、言葉の発音に問題が起こる原因や対応について解説します。
発音に関わる器官の形に問題がある
唇や舌などの発音に関わる器官の形の問題は、器質性構音障害とも呼ばれ、発音に問題が起こる原因です。
病気や怪我、先天性によるものなど、何らかの原因によって発音に関わる器官の形に問題がある状態です。
例えば、先天性のものであれば、口の中の唇が生まれつき割れた状態の口蓋裂や口唇裂、舌の裏の筋が短いことで舌の動きが制限されてしまうような状態が挙げられます。
後天的なものでは、舌がんの切除手術などが影響して舌の一部が動かしにくくなった状態が挙げられます。
器質性構音障害に該当する場合は、発音に関わる器官の何らかの問題が関係してくるため、医療的な対応で原因となる症状の治療が必要です。
歯並びや噛み合わせの悪さによる影響
歯並びや噛み合わせの悪さも言葉の発音に影響を与えます。
例えば、受け口といわれる反対咬合の場合、噛み合わせの際に隙間ができてしまい、歯に舌先が触れるサ行やタ行の発音が悪くなり、幼児のような喋り方になってしまいます。
そのほか、不正咬合の種類によって発音が難しくなる発音は以下の通りです。
不正咬合の種類 | 難しくなる発音 |
---|---|
上顎前突(出っ歯) | パ行の発音が難しくなる |
反対咬合(受け口) | サ行の発音が難しくなる |
開咬 | サ行の発音が難しくなる |
特に幼児期の指しゃぶりなどが歯並びや噛み合わせの悪さに大きな影響を与えます。
指しゃぶりが癖として長期間続いてしまうと、上の歯は前に押し出され、舌の歯は押さえつけられることになり、サ行の発音が難しい開咬という状態になります。
歯並びや噛み合わせの悪さには、先天性のものと後天性のものがありますが、どちらも一度崩れた歯並びや噛み合わせは自然に治るものではありません。
発音に問題があれば、歯並びや噛み合わせを改善させるための矯正治療や癖や生活習慣の見直しをしましょう。
神経や筋肉の問題による影響
発音に使う筋肉や神経に麻痺や障害が起こった場合、舌や口を正しく動かせなくなり、発音に問題が起こる原因となります。
脳血管障害や脳腫瘍、事故による頭部のケガなどが神経や筋肉に影響を与える主な原因です。
医学用語では運動障害性構音障害と呼ばれ、脳卒中やパーキンソン病といった脳にまつわる病気がキッカケとなる場合があります。
耳の聞こえ方に問題がある
耳の聞こえ方に問題がある場合、発音にも問題があらわれる場合があります。
言葉の発達は、周りの人の話を聞き、それを真似しながら覚えていくため、聞こえる言葉に問題があると正しい発音を覚えることができません。
聞こえた音が正しいと思っていても、実際は正しく聞き取れておらず、間違った音で発音を覚えてしまいます。
耳の聞こえ方に不安のある方は、診察の際に聴力検査の実施などをご相談ください。
発達障害や知的障害の可能性がある
発音に関係する器官や耳にも異常がないにもかかわらず明瞭な発音ができない場合、発達障害や知的障害の可能性があります。
言葉の発音だけで判断はできませんが、ASD(自閉スペクトラム症)、ADD(注意欠如・多動性障害)、LD(学習障害)の可能性があるため、発達障害を専門とする機関への相談がおすすめです。
また、発達障害や知的障害などの原因にも該当せず、言葉の発達のみが遅れてしまうことを発達性言語障害といいます。
発達性言語障害は、言葉の意味を理解しているものの表出できない表出性言語障害と言葉の理解ができていない受容性言語障害に分けられます。
特に受容性言語障害の場合は、言葉の発達に遅れが認められることが多いため、聞くこと・話すことを専門家である言語聴覚士に相談し、言葉の発達の支援を検討するのがよいでしょう。
言葉の発達のために自宅でできること
言葉を正しく発音できるようになるためには、口・唇・舌・歯・顎などの発音に関係する器官の発達が欠かせません。
言語聴覚士による支援も言葉の発達には有効ですが、日ごろから言葉の発達のために家庭でのサポートも大切です。
ここでは、言葉の発達のために自宅でできることを解説します。
食事の際は唇・歯・舌を使うように心がける
食事の際は、唇・歯・舌をしっかりと使うように心がけることが大切です。
食べ物を食べる時に当たり前のように使う唇・歯・舌ですが、これらの器官は言葉の発音の際にも使われています。
食事の時から唇・歯・舌をしっかりと使うことで、筋肉などが発達し、言葉の発達に良い結果をもたらします。
しっかりと口を閉じて食べる、よく噛んで食べる、口の周りについた食品や飲み物を舌を伸ばして舐めるなど、口全体を動かす練習を心がけましょう。
口を使った遊びで口や舌の運動量を増やす
口を使った遊びで口や舌の運動量を増やすことは、言葉の発達には有効です。口を使った遊びで筋肉が発達し、より明瞭な発音が可能になるでしょう。
口を使った遊びは、以下のようなものがあります。
- シャボン玉
- ふきもどし
- 口じゃんけん
- ストロー鉄砲
- ラッパなどの口で吹くおもちゃ
- ティッシュ飛ばし
興味のある遊びで楽しみながら発音に必要な器官のトレーニングを行っていきましょう。
大人の口の動きを見て正しい動きを学ぶ
大人の口の動きを見て、発音の正しい動きを学ぶことも大切です。日本語の発音はそれぞれ口の動きが異なり、しっかりと口や舌を動かさなければ明瞭な発音ができません。
しかし、子どもは正しい口の動きを知らないため、大人の口の動きを見せて正しい口の動きを覚えさせる必要があります。
一語一句大げさに口を動かしながら、その様子を子どもに見せてみるのもよいでしょう。
うがいで“カ行”の発音を練習する
うがいによって“カ行”の発音練習が可能です。
外から帰宅する際に当たり前のように行ううがいですが、実は“カ行”の発音と同じ舌の動きをします。
日ごろからうがいを習慣づけすることで、自然に“カ行”の練習が可能になるでしょう。
まとめ
言葉の発達は個人差があるものの、子どもの成長とともに正確な発音が身につきます。
しかし、発音に関わる器官や筋肉、神経の問題、歯並びや噛み合わせの悪さ、耳の聞こえ方など、さまざまな原因が影響して言葉を明瞭に話せないケースがあります。
根本的な原因の解決に医療的な対応が必要になる場合もありますが、日ごろからの訓練によって明瞭な発音を目指すことが可能です。
さくら歯科口腔外科では、聞くこと・話すこと・飲み込むことのスペシャリストである言語聴覚士が、個別の発達状況にあわせて1対1で言葉の発達を支援することばの発達支援ルームを用意しています。
「言葉が聞きとりにくい」「カ行やサ行の発音が苦手」などの悩みがあれば、お気軽にご相談ください。
また、虫歯治療、ホワイトニング、顎関節治療などその他治療を検討している方は、さくら歯科口腔外科の診療案内をご確認のうえご連絡ください。